Monster

.30 2012 comment(0) trackback(0)
イギリスに居た頃、僕は、デイヴィッドというアメリカ人の先生の処に居た。
そこは、演劇学校ではなく、彼が開いていた実験室的な処。
その名も、“David Bennett's International Actors' Laboratory”という。
折角のイギリスなのに、アメリカ人に師事していたなんて―――――変である。
でも、諸々のタイミングが、そういうことだったのだ。
週に二回のクラスの日、入口のドアを開ける僕の姿を見ると、デイヴィッドは決まってこう云って迎えてくれた。

Hello, little monster, how are you?

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たまに、“Little monster”部分が“Devil”になることもあったが、いずれにしろ、愛情を目一杯込めて、僕を化け物扱いした。

当時、デイヴィッドの実験室は、ロンドン中心部からノーザンラインで北上、Zone2に位置する町、カムデンタウンに在った。
駅から歩いて5分くらいの処に在る古い建物の、確か3階だったと思う……否、4階か…?
とにかく、老朽化のかなり進んだ建物の一室を、時間借りしていたのだ。
さすがイギリス、お化けが当たり前に出そうな処だった。
勿論、エレベーターなど無いので、おじいちゃんで太っちょのデイヴィッドは、ゼーゼー息を切らしながら、階段を昇り下りしていたのを覚えている。

或る日のクラス後、21時くらいだったろうか―――――かなりアナログなドアに鍵をかけ、裸電球が心許なく灯っているだけの薄暗い階段を、その日の参加者数名とワイワイ云いながら下りていた時のこと。
ドスンっ!という物凄い音が響いた。
デイヴィッドが階段を踏み外し、踊り場に倒れ込んだのだ。
更に、その勢いのまま壁に頭をぶつけ、嫌な鈍い音がした。
戦慄が走った。
慌てて駆け下り、様子を伺う。
話しが出来るので、どうやら意識ははっきりしているようだ。
幸いにも、生徒の一人、キャサリンが看護師をしていて、彼女が、起こしても平気だろうという判断を下した。
数人がかりで巨体を起こし、抱えるようにして階段を最後まで下りきった。
よくよく考えると、その時のデイヴィッドは、意識がはっきりしているどころか、ずっと喋り続けていた。
喋っている内容もまた、後で思い返すと、なんとも可笑しく、10年以上経った今でも笑えてしまうのだ。

「おお~勇輔!俺はもう死ぬんだ~。まぁ、死んだところで、悲しんでくれる人は居ないけど~~~」

と、さんざん嘆き続けるのである。
しかし、それは、後になっての笑い話で、あの時の僕は、もしかしたら本当に死んでしまうかも知れないとさえ思った。
これは、コメディーの基本である。
演っている役者たちが、真剣であればあるほど、可笑しいものだ。

さて、実験室の建物は、路地を入ったところに在ったので、タクシーを拾うにも、大通りまで出なければならず、更に、携帯があまり普及していなかった当時は、救急車を呼ぶにも、公衆電話まで走らなければならなかった。
とにかく、早く病院へ連れて行きたかったので、ひとりは電話を掛けに行き、その他の何人かはタクシーを拾いに行った。
僕は、その場にデイヴィッドと一緒に残り、その巨体を支えていた。
するとそこへ、なんと、珍しくタクシーが通りかかったのである。
僕は、すかさずタクシーを止め、病院に行きたい旨を伝えたのだが、憐れな瀕死の老人アピールをするデイヴィッドを見た運転手の反応は、乗車拒否だった。
既述したように、その時の僕はかなりアップセットしていたので、非情な運転手に激怒し、悔し涙を流してしまうほどだった。
そんな僕に、デイヴィッドが、

「おお~勇輔、世間なんてこんなもんだよ。死にかけの老人なんて乗せたくないんだ。みんな、厄介を抱え込みたくないんだから。おお、俺は死ぬんだ~」

と、嘆き続けた。
やがて、車を拾ってクラスメイトが帰って来た。
キャサリンが、付き添って病院に連れて行くことになり、僕らは、彼女からの連絡を待つことになった。
それから数日後、念の為に検査をしてみたが大事には至っていない、というキャサリンからの報告に、みんな胸を撫で下ろしたのだった。
更に後日談として、

「勇輔、必死にタクシーと交渉をしてくれた時の感覚を覚えておけよ」

と、デイヴィッドに云われたのを思い出す。
あんなに悲劇の主人公と化していたのに、生徒の様子を、しっかりと俯瞰で観察しているデイヴィッドは、いやはや、Big Monsterである。

さて、僕が帰国して、早や11年が経った。
どうやらデイヴィッドは、もうこの世に居ないらしいという便りが届いた。
11年前の段階で、既におじいちゃんだったのだから、亡くなっていてもおかしくはないのだが、届いた便りは、あくまで、もうこの世には居ない“らしい”である。
こんなに情報が曖昧なのは、彼らしいと思う。
上手く生きていれば、ハリウッドで左団扇の生活が出来ていたかも知れないのに。
実際、若かりし頃の彼は、二枚目の人気俳優だったそうだ。
なのに、晩年は、流れ着いたロンドンで細々と“実験室”を開いていた……
生きるのが下手な人だったと、僕は記憶している。

でも、デイヴィッドがこんなに生き下手でなければ、アメリカ人のくせに、ロンドンンで小さな実験室をやっていなければ出逢えていなかっただろう。
出逢えていなければ、Littele Monsterの僕は、いまだに自分の飼い慣らし方が分からず、冗談では済まされないMonsterになっていたかも知れない。
今でもよく自分を持て余し、取り扱い説明書が欲しいと思うほどだが……
それでも、犯罪者にもならず、なんとか一応、社会の中で生きているのだから、良しとしなければならないだろう(嗚呼、なんと、良しの基準が低いのか!)。

どうやら僕も、生きるのが下手くそである……

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Littele MonsterよりBig Monsterへ
最大限の感謝と愛を込めて……
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ゴべリンドンの沼

.19 2012 comment(8) trackback(0)
それは、東西線木場駅、もしくは、有楽町線豊洲駅から、それぞれ徒歩20分の処。
“ゴべリンドン特設劇場”と名付けられた、廃工場で行われている―――――

朧(おぼんろ)と云う集団が、なにか面白いことをやっているから、観に行こうと誘われたのが、確か去年。
が、その時はタイミングが合わず行けなかった。
誘ってくれたのは、平田朝音(ひらたともね)さん。
俳優座の女優である。
彼女とは、同じタイミングでロンドンに居合わせ、同じ先生に師事していたのだから、かれこれ十数年という古い付き合いだ。
帰国後も、何本か一緒に“もの創り”をしている。
青い部屋でのヘンテコパフォーマンス、女中たち、深海のスキャンダル……
この人との出逢いも、別の章で書いたシダミナとは違うニュアンスで、僕に大打撃を与えてくれた。(シダミナについては、ここをクリック
大先輩だが、ともねぇと呼ばせてもらっている。
まぁ、そんな人である。

久々に呑もうということになり、家にお邪魔した。
ふと、テーブルに置かれた印刷物に目が留まり、何の気なしに手に取ってみる。
というのも、僕好みの雰囲気を醸している絵面だったから。
土臭さがあって、でも、ゲスじゃない。
物語が感じられる、画面―――――

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「あ、それそれ、おぼんろのチラシ。誘ったやつ」

絵を見ていただけだったが、そう云われて初めて、それが芝居のチラシだと認識し、その上に載っている文字情報を追い始めた。
驚いた―――――知り合いが2人も出ている!
事あるごとに、何故だか出逢うという、不思議な御縁の人達だ……
タイムテーブルに目を移す。
今回は、日程的にタイミングも合う。
チラシのセンスも好き。
これは、観に行けということなのだろう。

それから数日後の、昨日。
ともねぇと木場駅で待ち合わせた。

さて、やっと辿り着いたそこは、エアコンもなく、まさに廃工場。
数台の扇風機が回り、開演前には、冷たいお水と団扇を配ってくれたが、この回は、20時開演。既に日も陰っているせいか、思ったほど暑くなかった。しかし、9月も半ばだというのに、猛暑が終わらない日中の暑さを思うと、マチネ公演は、きっと……などと、想像するのは止そう………

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演技エリアは、この空間全部。
ビールケースの観客席も、勿論舞台の一部。
段ボールとボロ布で創られた空間からは、嫌な印象を受けない。
汚くないのだ。
これって大切。
いくらお金を掛けて立派なセットを組み、高い生地の衣裳を身に纏っても、好感が持てなきゃ意味が無い。
さて、肝心の内容はと云うと……好い!
好いんだよ!
目撃すべき作品だと思う。
こういう集団にありがちな、イヤな熱さが無い。
でも、熱いのだ。
語弊があるかも知れないが、敢えて云わせて貰うと、僕は体育会系のノリが好きではない。
「俺たち!仲間だよな!!」的な熱さが、得意ではないのだ。
しかし、この集団は、熱さを孕んでいるのに、どこかクール……否、クールでもないか…?
とにかく、とても好いのだ。
マスターベーションに陥っているわけでもないし、互いの傷を舐め合っているわけでもない。
ちゃんと個人が居るのだ。
演者は5人。
この集団の主宰であり役者であり、作、演出も手掛ける末原君は、いい意味で危うさと幼さを持っているのだろう。
だからこそ、下手すれば浮いてしまう危険性だってあるわけだ。
しかし、彼を取り巻く4人が、そうはさせていない。
五人五様の色がしっかりとあり、互いに負けていないのに、ハーモニーを奏でる。
正直、悔しかった。
好いものを観ると、役者という人種は、悔しさで暴れたくなる生き物だ。

負けていられない。

こんな処で、ストレスを溜め込んでいる場合じゃないではないか!
アクションを起こさなきゃである。
そもそも、ActorはActingをする人なのだ。
Actの派生語はActionではないか。
やはり、アクションを起こさなきゃである。

終演後、駅までの同じ道のりは、えらくアッという間に感じた。


朧(おぼんろ)公演『ゴべリンドンの沼』

10/7までロングランをやっている。
是非、彼等を目撃して欲しい。
彼らの想いや公演詳細は、こちらをクリック
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Mein Bester Feind

.09 2012 映画 comment(1) trackback(0)
最近、時間があるので、本を読んだり、DVDのレンタルをよく利用する。
稽古が忙しいと、なかなかこういう時間を持てないので、今の状況に感謝すべき要素は大いにあるわけだ。

たった今、ある映画を観終った。
『ミケランジェロの暗号』というタイトルと、ナチスを扱った映画にも関わらず、レンタルショップが“ミステリー”というジャンルに仕分けてあるのにも惹かれ、借りたものだった。

期待は……ある意味、大外れ。

ミステリーなんぞでは、なかった。
かと云って、“ありがちなナチ、ユダヤもの”でもない。
期待外れだったのは、面白かったからだ。
どこかコミカルで、ラストは痛快。
とても気に入ってしまった。

それにしても、邦題に違和感がある。
タイトルというのは、とても大事だと、僕は思っている。
なにせ、最も端的に、その内容を表しているものなのだから。
『ミケランジェロの暗号』というタイトルからは、どうしても、『ダヴィンチ・コード』的なものを期待してしまうのだが……
原題は、こうだ―――――

“Mein Bester Feind”

英語でいうと、“My Best Enemy”、つまり、『私の最良の敵』とでも訳せばよいのだろうか。
これならば、なんの引っ掛かりもなくなる。
日本の映画協会が、どのような意図でこの邦題を選んだかは、僕なんぞが知る由も無いが、結果、好い映画だったので、邦題には釈然としないまでも、気分好く、エンドロールを見送った。

ナチやユダヤ、ホロコーストを題材にしたものは、その多くが、痛さで堪らなくなる。
しかし、少し角度を変えてみると、こんなドラマが浮かんでくるのかも知れない。

葬式中でも、可笑しい時は笑うのが人間……
だから、この映画を敢えてジャンル分けするならば、人間の滑稽さを描いた“コメディー”だと、ここで紹介しても、差支えないのではないかと思う。

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時の効能

.07 2012 ちょっとしたこと comment(0) trackback(0)
『空白の一日事件』というのが、ある。
僕は、野球には全く興味が無いので、この事件について、語れるほど知っちゃいない。
だから、詳細が書かれたリンクでも貼ろうかと思い、色々検索してみたが、どれも筆者の想いが強く、事件の事実を淡々と伝えているものを見つけるのが難しい。
なので、やめた。
とにかく、この二人には、大きな“しこり”があることは、事実だ。



「時が解決してくれる」と、よく云う。
きっと、そうなのだろう。
でも、少なくとも僕の経験上、それには、ある条件が必要な気がする。

「お互い、顔を突き合わせていない“時”なら、解決してくれる」

とでも云おうか……?
事あるごとに、相手の存在を認めなきゃならない状況では、なかなか困難を感じてしまう。
気持ちが、その度、ぶり返してしまう。
人間の一番の才能は、“忘れる”ことらしいが、傷の記憶は、なかなか忘れない。
トラウマという言葉もあるくらいなのだから。
もしかしたら、どんな“時”を以てしても、解決などしないのかも知れない。
しこりは、確かに遺るのだから。
その“しこり”をひっくるめて、次に進めることを何と云うのだろう―――――








小林繁さんのご冥福を、お祈り申し上げます。
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Profile

yoosque

Author:yoosque
林勇輔――――役者
1974年5月16日(木)、疳の蟲を身体いっぱいに抱え、この世に生まれ出ずる。
<幼年期>
蟲たちは、勇輔の故郷、讃岐の民間療法により体外に誘き出され駆除されたかに見えたが、未だ体内に巣食っている模様。
<少年期>
好き嫌いが多く、この世で食べられるものが少なかった。
<青年期>
中途半端な生き方を謳歌する。芝居に出逢う。
<壮年期に差し掛かる、現在>
2012年1月12日(13日の金曜日イヴ)、突然、“声溜め”を公開することを決めた。

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