当たりの手前

.30 2012 或る物語 comment(0) trackback(0)
此処は、とても小さく平和な町。
今日も、平和の歌が聴こえている。
此処に住む誰もが知っている、歌。
何故知っているのか、何故歌うのか、誰も何も知らないけれど、平和の歌を歌っている。

町の外れには、小さな祠の在る森が、鬱蒼とした影を落とす。
祠には“アタリ様”が祀られているので、
この不気味な森は“アタリの森”と呼ばれている。
アタリ様とは、どうやら恐ろしい魔物らしいこと以外、誰も何も知らない。
実際、森に出掛けたきり帰って来た者は居ない。
賢者は云う。

「森に行ってみようなんて考える者は、魔物に憑りつかれておるのじゃ。正気の沙汰ではあるまい。クワバラクワバラ」

君田貴方(きみだあなた)さんは、この町に住んでいる。
貴方さんは、平和の歌を歌っている。

        ざわざわざわ…………ざわざわ…
     …………に、心アタリはございませんか?…
       ざわざわ…ざわざわざわ……


と、森の木々を揺らす風が囁きかける。
でも、貴方さんには平和の歌しか聴こえない。

       ざわざわざわ……
     平和の歌しか聴こえないフリをする……


だって、何故かは知らないけれど、この町に住んでいるから。
何故かは知らないけれど、アタリの森は怖いから。
何故かは知らないけれど……
此処にこうして居さえすれば、これからも平和に生きていられる。

      …………
        平和のつもりで居続けられる
      ざわざわ……ざわ
        ざわざわ…


アタリの手前に居さえすれば
あの森に近付きさえしなければ、ずっと平和に―――――

         ざわざわざわ……

貴方さんには聴こえる。
森の声が。
貴方さんは、一歩を踏み出す。
森の方へ。
が、はたと足を止め、立ち尽くしてしまう。
「ちょっと待って―――――私たちは此処に居るのが、当たり前のはずでしょ……?」

      真物を見るのは、怖い怖い
         真物に会うのは、怖い怖い
      真物を知るのは、怖い怖い
       だから、そっと祠に閉じ込めましょう

        ざわ…ざわざわ……
          …………




by 安 慈影良
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Author:yoosque
林勇輔――――役者
1974年5月16日(木)、疳の蟲を身体いっぱいに抱え、この世に生まれ出ずる。
<幼年期>
蟲たちは、勇輔の故郷、讃岐の民間療法により体外に誘き出され駆除されたかに見えたが、未だ体内に巣食っている模様。
<少年期>
好き嫌いが多く、この世で食べられるものが少なかった。
<青年期>
中途半端な生き方を謳歌する。芝居に出逢う。
<壮年期に差し掛かる、現在>
2012年1月12日(13日の金曜日イヴ)、突然、“声溜め”を公開することを決めた。

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