鏡よ、鏡……

.20 2012 或る物語 comment(1) trackback(0)
小さな芝居小屋の奥の方。
表舞台とは、真反対の世界―――――楽屋。
物憂げな表情を塗り潰してゆく様に、鏡に向かい、自らの顔に化粧を施す、女優が独り。

「鏡よ、鏡……私は今日も美しいかしら?」

女優は、鏡に尋ねました。
すると、鏡が云いました。

「私は、ただ、ありのままを映し出す、鏡―――――美しいものは、美しく。醜いものは、醜く。ただ、そのままに」

「まぁ、それでは答えになっていないわ……」

女優は、もう一度、尋ねました。

「鏡よ、鏡、お願い、答えてちょうだい。私は今日も……美しいかしら…」

鏡が、云いました。

「はい、貴女は今日も、お美しい」

「あぁ、よかった……」

そう云って、女優は、溜息をひとつ落とした。

「しかし、ちょっとお待ちください」

鏡が云いました。

「私が映して差し上げられるのは、貴女が居るそちらの世界とは、そっくりそのまま真反対の世界。よおく御覧なさい。貴女の左頬を伝う涙が、私の中の貴女には、右頬を落ちてゆく……この方は、きっと、貴女とは別人なのでございましょう。まぁ、貴女がお美しいことには、変わりありませんが、念のため……」

ここは楽屋―――――表舞台とは、真反対の世界。
鏡は、今日も、華やかな女優の姿を映し出す。


by 安 慈影良
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No Name
パリ祭でのフレーズですね。
この詩はドキっとします鏡は外見ではなく、心を写しているのですね。
2012.07.21 23:11

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Author:yoosque
林勇輔――――役者
1974年5月16日(木)、疳の蟲を身体いっぱいに抱え、この世に生まれ出ずる。
<幼年期>
蟲たちは、勇輔の故郷、讃岐の民間療法により体外に誘き出され駆除されたかに見えたが、未だ体内に巣食っている模様。
<少年期>
好き嫌いが多く、この世で食べられるものが少なかった。
<青年期>
中途半端な生き方を謳歌する。芝居に出逢う。
<壮年期に差し掛かる、現在>
2012年1月12日(13日の金曜日イヴ)、突然、“声溜め”を公開することを決めた。

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